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現役臨床医が解説!学校健診は存続すべきか?MedPeer会員医師に調査【スバル@精神科医 解析・文】

学校の健康診断で上半身裸になる必要はあるのかについてネット上で激しい議論が巻き起こっています。今回はSNSで話題となっている学校健診の存続をテーマに記事を書きました。
様々な医師の声を踏まえながら、私自身も医師としての見解をお伝えできたらと思います。


なぜ学校健診の存続が議論になっているのか

2024年5月20日横浜市の市立小学校で男性医師が4~6年の男女児童計約100人に健康診断を実施しました。
その際、児童が上半身裸で診察を受けたことについて、着衣で良かったのではないかなどという意見を保護者がSNSで投稿したことをきっかけに激しい論争が起きています。なお、女児の診察には女性看護師が同席していたそうです。

学校健診に関しては、今年1月に文部科学省から通知(「児童生徒等のプライバシーや心情に配慮した健康診断実施の環境整備について」)が発出され、健康診断では子どもたちのプライバシーや心情へ配慮し、正確な検査・診察に支障のない範囲で、原則は着衣やタオルなどで覆うこととされました。
このように通知にはあいまいさが残されたこともあって、健診時に着衣すべきか否かについて議論が巻き起こっているのです。

医師の見解としては、着衣のまま診察すると、側弯症や虐待の痕、皮膚疾患を見逃してしまう、心雑音が聞きにくいなどの意見が多いです。私の経験からも衣服を着用したままでは、服と擦れる音が入り込むので、正確な聴診が難しくなります。
短時間で数百人の診察を行わなければいけない学校健診という状況であればなおさら難しいと思います。

一方で、保護者からは子どもたちのプライバシーや心情への配慮を重視してほしいといった意見も多く、毎年学校健診の時期になると議論が起きているのです。

学校健診を今後も存続すべきかについて医師2500名にアンケート実施

そうした中、医師専用コミュニティサイト「MedPeer」で学校健診の存続の是非についてアンケートが行われました。今回はそのアンケート結果についてご紹介いたします。

結果は 「原則着衣の上、学校健診を存続すべき」が最も多く42.1%を占めました。次に多かったのは「学校健診は廃止すべき」という意見で31.9%でした。その他は、「原則着衣を撤廃し、学校健診を存続すべき」(14.2%)、その他(11.8%)という結果でした。

「原則着衣として学校健診を存続すべき」という意見が最も多いように、医師の中でも子供たちのプライバシーに配慮するなどして、学校健診も時代の変化に合わせていかないといけないと考えている方が多かったようです。
一方で、着衣のまま健診をして病気がわからず、形だけのになるのであれば、学校健診は廃止してもよいのではないかという意見も多く、医師の中でも大きく意見が分かれるテーマとなりました。

「原則着衣の上、学校健診を存続すべき」という意見まとめ


健診は必要です。たとえ発見できなくても、常にある異常ではないと診断できる。後日異常が発見できれば、それまでの経過として症状出現の有無などが診断に考慮できる要因となるかもしれない。受診控えによる病状悪化がおこることが多少なりともふせげるかもしれない。着衣については、時代の変遷でやむを得ないと思う。
60代 男性 勤務医 呼吸器外科 一般外科

上半身裸であれば診察の手間は少なく、一日に多数診察する医師の負担はへりますが、児童への配慮を考えれば、着衣もしくは前を開けれるシャツか羽織もので診察するのが良いかと思います。学校健診の二次健診を行っている側からすると学校健診で発見される疾患も多数経験しており学校健診の意義はあると思います。
40代 男性 勤務医 小児科

各家庭に任せると、親の関心や方針の差により子供が健診を受けられない問題が生じる恐れがあります。虐待に気づく機会も失われてしまう。学校健診は平等に子供たちに与えられるべきと考えます。
着衣の是非についても、時代の流れを考慮し服の上から診察した方がトラブルは起きにくいかなと。
30代 女性 勤務医 消化器内科

着衣云々は現代が生んだ問題と思います。健診という枠組みがないと、見逃される疾患が増えると思いますので、存続すべきだと思います。着衣については医師の間でも可否が分かれるところですが、私のように着衣のままでも気にしない人は少なからずおられると思いますので、「否」の意見ありきでの論議は反対です。
50代 男性 勤務医 一般内科 漢方医学 総合診療 小児科 整形外科・スポーツ医学


学校健診で発見される疾患も多いことから、やはり多くの医師は学校健診が必要だと考えています。
上半身裸で診察することで見つけられる疾患もあり、1日に多数診察する医師への負担を考えると、上半身裸であることが望ましいと言えます。しかし、子供たちへの配慮を考えれば、妥協案として着衣などで診察せざるを得ないと考えている医師が多いようです。

「原則着衣を撤廃し、学校健診を存続すべき」という意見まとめ


疾病の早期発見のためには学校健診は存続すべきと思いますが今のままの状況では本末転倒で見つかる疾患も見つからず形だけの健診になると思います。もし着衣のままの健診を存続するなら学校医の免責基準をしっかり規定する必要があると思います。
60代 男性 開業医 一般内科 消化器内科

確かに、絶対必要かというと必要なら直接受診でもよいかと思いますが。現在小中高校の学校医をしており正直解放されたいですが、事前家庭調査でも側弯症など軽装の方がコメント多く意外に重症の親御さんが気づかず、健診で指摘することを考えると割合は少ないけど健診の意義を感じています。
50代 女性 開業医 一般内科 循環器内科

子どもが健康を担保できるかどうかは、親次第なところになってしまう。医療に本来ならアプローチできない子の最低限の健康の担保の役割はあると考える。
着衣に伴うトラブルは、また別問題で考えるべきことであり、そのトラブルがあるから健康診断を撤廃するというのは乱暴な議論にはなるかと思われる。しかしながら、請負う医師に求められる質と、それに対するトラブルも不釣合であり、きちんとした手順の健診を受けない家庭においては、別途医療機関で受診をすることを義務化するなどをすれば良いかもしれない。
30代 男性 勤務医 精神科 一般内科

原則着衣では無く「原則、衣服を着ない形で」に変更して、学校健診は存続すべきと思います。
「裸になる事も、健診を受ける事も強制はしない」が、「着衣、健診を受けないデメリットについては、あくまで児童・保護者の責任とする」で良いと思います。
30代 男性 勤務医 小児科 代謝・内分泌科 救急医療科 産婦人科 総合診療


着衣では疾患を見逃す可能性があるので、存続するならば脱衣が必要であるという意見が多かったです。
着衣で学校健診を行い、疾患の見逃しで訴訟されるリスクを考えると、学校医の免責基準をしっかりと規定しなければいけないといった意見もありました。

「学校健診は廃止すべき」という意見まとめ


最近の保護者や児童の権利意識が異常なほど高まっているので苦情が出やすい環境にあると思う。着衣で診察したりしてちゃんと診察や聴診ができなくなってきており形骸化しているように感じています。それならば、保護者が好みの医院に各自で受診して、満足する健診を有料で受ければ良いと思います。そしてその希望がなく、学校でお願いします、という対象者だけの学校健診を行えば簡略化、縮小化ができて良いと思います。(一部抜粋)。
50代 女性 開業医 皮膚科 アレルギー科

学校健診は廃止し、かかりつけ医による個別健診に移行すべきと思います。衆目に晒されている状況で診察行為を行う事は非常時に限られるべきですし、教職員の負担も大きい。さらに欠席者、不登校児をどうするのかという問題もあります。ワクチン同様、健診も個別にやるのが良いと思いますし、ワクチン接種と同時に済ませてもいいのではとも思います。
40代 男性 勤務医 放射線科

健診の精度をあげるために必要なことを性的な問題と置き換えられ、さらにそれで見逃しがあれば責任をとらされる。こんなことはやってられないと思います。
40代 女性 勤務医 小児科

今の状況では正確な健診をすることはできない。見逃しによる訴訟リスクもあり、廃止すべき。
30代 男性 勤務医 消化器外科 一般外科

そもそもかなり負担に感じています。
指定の時間に間に合わせるよう、混雑してる外来を短縮したりなど、開始前から、時間調整に神経を使いますし本来業務にも影響があります。
数百人の健診自体、体力的にきついと感じるようにもなり、医師側の高齢化など考えると継続可能なのか心配です。
各自、かかりつけの小児科などでの受診とすれば、小児科への受診促進にもなり健診をきっかけとした様々な相談のきっかけも親御さん達ももてるのではないかと、切に思います。
50代 女性 開業医 一般内科


昨今、保護者や児童の権利意識が高まっていて医師への苦情が出やすくなっており、またSNSの台頭によりそれら苦情が世論として影響を及ぼしやすくなっています。
医師も健診が形骸化してきているのならば学校健診は廃止にした方がいいのではないかという意見がありました。

実際に苦情がきたことで学校医を辞退したという先生もいました。
学校医はほとんど報酬ももらえず地域のためにボランティアでしているのに、苦情しか来ないのならば、今後引き受けてくれる医師はいなくなると思います。

まとめ

学校健診を着衣で行うのか、上半身裸で行うのかという議論はとても難しい問題だと思いました。

側弯症や心疾患などの病気を正確に診断するには上半身裸であることが望ましいです。しかし、児童のプライバシーや心情への配慮もしなければいけません。
どちらかを重視すると一方が犠牲になるといった非常に難しい問題です。

着衣で学校健診を行うことで疾患を見逃すリスクが増えるということを医師が情報発信して保護者や児童の理解を得ることができるように努めていくことも大切だと思います。
しかし、現実的にはこれだけ問題になっているので、今後は原則着衣で学校健診を行わざるを得ないのが実情だと感じています。

疾患を見逃すことで訴訟されるリスクもあり、保護者からはクレームが入り、報酬もほとんどもらえない現状では今後は学校医を引き受ける医師はいなくなるでしょう。
診察も形だけとなってしまい、学校健診自体にメリットを感じる人がいなくなることで、今後はなくなっていくかもしれません。
国も着衣なのか脱衣なのかを明確にしたガイドラインを出して、着衣ならば疾患を見逃した場合の医師の免責を規定することも必要だと思います。

あなたは学校健診は存続すべきだと思いますか?

解析・文:スバル@精神科医(X: @subaruseisin

編集部注)本記事は一般社団法人正しい医療知識を広める会の協力で執筆いただきました。

一般社団法人正しい医療知識を広める会
正しい医療知識を広めるという理念のもと、質の高い専門知を発信する専門家を増やすためのプラットフォームとしてアザラシライティング塾を運営中。医学生から教授まで、200人以上の多種多様な背景を持つ医師が在籍。


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