見出し画像

地域の医療機関と共に支える東京大学医学部附属病院の緩和ケア

病気と闘う患者さんにとって、身体的な痛みだけでなく、心の不安や生活上の困難は避けて通れない課題です。東京大学医学部附属病院では、患者さん一人ひとりのQOLの向上を目指し、地域の医療機関と連携しながら総合的な緩和ケアを提供しています。
同院の地域医療連携センター センター長と緩和ケア診療部 部長を兼務されている住谷昌彦先生に、緩和ケアの現状やその重要性、そして地域との連携を通じた患者支援の取り組みについて伺いました。


東京大学医学部附属病院 地域医療連携センター センター長
医学博士 住谷昌彦先生

筑波大学を卒業後、2008年より東京大学医学部附属病院 麻酔科・痛みセンターに勤務し、2014年から緩和ケア診療部 部長、2019年から地域医療連携センター センター長を務める。

地域医療連携と2人主治医制度による患者支援

東京大学医学部附属病院の地域医療連携センターでは、「前方連携」(患者さんをご紹介いただく)と「後方連携」(患者さんを地域の医療機関へご紹介させていただく)の2つの役割を担っています。
前方連携では、患者さんをご紹介いただく際に、予約センターでの電話を通じた予約や、メドピアが運営するオンライン予約システム『やくばと』の2つの方法を活用しています。後方連携では、看護師やソーシャルワーカーと連携し、病状の進行した患者さんを地域の医師にご紹介させていただいています。

「当院は高難度の手術や治療と共に一般的な手術や治療も提供し、地域の医療機関と連携して患者さんを支えています。その後は、地域の先生方と協力し、当院の外来診療を続けながら患者さんを支援する体制を整えています。『2人主治医制度』で当院と地域の医師が共に主治医として協力し、患者さんを総合的にサポートしています」(住谷先生)

体の痛みだけでなく、心もケアする緩和ケアの重要性

「緩和ケア」は、治療過程で生じる副作用や疾病そのものによる苦痛を和らげることを目的としています。東京大学医学部附属病院では、痛みを代表とする身体的な苦痛だけでなく、心理的な苦痛にも対応することを重視しています。例えば、命の危険を伴う疾患と診断された際の不安・不眠に対して、緩和ケアチームに所属する公認心理士や精神神経科医師・心療内科医師と連携し、心のつらさにも対応します。
さまざまなバックグラウンドを持つ専門家によるチームで、がんだけでなく、その他の疾患にも早期介入を行い、アドヒアランス※を高め、生命予後の改善を図っています。

※アドヒアランスとは…患者さんが治療方針の決定に賛同し積極的に治療を受けること

「一般的に、日本では緩和ケアというとがん、それも人生の最終段階に受ける終末期医療として認識されがちですが、当院は疾患のコントロールを重視し、できるだけ治療経過の早期から介入しています。患者さんをご紹介いただく地域の医師にも『がん診断時は当然のことながら、がんと診断されそうな段階でも緩和ケアの必要性を併せて考慮する』方針を伝えています。例えば、がんに対して紹介を受ける際、痛みや不安、不眠などの症状~を持つ患者さんには、がんの診断・治療を担当する診療科の外来だけでなく緩和ケアチームの外来にも紹介予約していただくようお願いしています。
また、痛みの管理には医療用麻薬や神経ブロック治療を活用しています。特に、医療用麻薬については、麻薬に対する依存症や中毒などの誤解を解き、適切な使用方法を説明しています」(住谷先生)

患者さんに寄り添い、地域の医療機関と連携しながら、QOL向上を目指した緩和ケアを

患者さんはつらい病を抱えているため、身体的・精神的なつらさがどのように生活に影響を及ぼすかを考え、一人ひとりの患者さんの生活背景に応じた診療を行っています。自宅療養を希望される方には訪問診療や訪問看護の導入をサポートしたり、ご家族にとって介護の負担が大きいと感じられる場合には、施設入所や慢性期病院への転院を検討したり、患者さんの希望に応じた療養環境を地域で提供することを大切にしています。

「当院の緩和ケアチームの診療規模は、私の知る限りでは全国の大学病院の中では最も多い年間約1,000~1,200件の依頼に対応しています。私たち緩和ケアチームの外来診療予約は、どれだけ早くても2週間から1か月ほど先になるのが現状です。その間に患者さんの痛みが強くなった場合、私たち緩和ケアチームの外来と外来の間に、地域の先生方が医療用麻薬の増量や足りない分の処方を行っていただければ、患者さんが緩和ケアのためだけに東大病院に来院する必要がなくなります。このような医療用麻薬の処方を地域で一緒にご担当いただくことをお願いしたいと考えています。
『患者さんが自分らしく過ごせること』を治療の目標に掲げ、地域の医師と連携して患者さんのご希望に寄り添った緩和ケアを提供しています。多くの患者さんが自分らしく療養生活を過ごせるよう、全力で取り組んでいます。ぜひ地域の先生方には、患者さんをご紹介いただくと共に、一緒に患者さんのQOLを高めていただければと思っています」(住谷先生)

最後に

東京大学医学部附属病院の緩和ケアチームには、麻酔科専門医、腫瘍専門医、精神科と心療内科の医師、看護師、薬剤師、公認心理士、管理栄養士など、多様な専門分野のスタッフが在籍し、患者さんを総合的にサポートしています。この取り組みを通じて、患者さん一人ひとりのQOL向上を目指した支援がこれからも続けられていくことでしょう。

>>> もっと詳しく知りたい方はこちらから

医師専用コミュニティサイト「MedPeer」への登録はこちら

マガジンをフォローいただくと、定期的に医師の声をお届けします


この記事が参加している募集

最後まで読んでいただきありがとうございます。 公式X(旧Twitter)でもたくさん情報を発信しているので、ぜひフォローをお願いします。