【医師調査】保険診療と自由診療による混合診療賛成?反対?
現在の日本の医療において、保険診療と保険外診療(自由診療)を同時に組み合わせて行う、いわゆる「混合診療」は一部を除いて原則禁止となっています。混合診療の解禁については、これまでも度々議論が積み重ねられてきた分野であり、その是非については意見が分かれています。
今回、その是非についての医師向けの調査をふまえて、まとめてみました。
混合診療について
冒頭でもお伝えした通り、現在の日本の医療において、保険診療と保険外診療(自由診療)を同時に組み合わせて行う、いわゆる「混合診療」は基本的に禁止となっています。
保険診療と自由診療を併用すると、保険診療の部分も100%自己負担となってしまいます。
混合診療とは
健康保険の範囲内の分は健康保険で賄い、範囲外の分を患者さん自身が費用を支払うことで、費用が混合することを指します。
保険診療とは
健康保険法等の医療保険各法に基づく、保険者と保険医療機関との間の公法上の契約。保険診療を実施できる医師(保険医)が、保険医療機関において 健康保険法、医師法、医療法等の各種関係法令、『療養担当規則』の規定を遵守し、医学的に妥当適切な診療を行い 診療報酬点数表に定められたとおりに請求を行うことで成り立ちます。
保険診療は国民皆保険制度に基づいており、被保険者は全国どこでも制限を受けず医療機関にアクセス可能で、窓口で費用の一部(1~3割)負担を行うだけで医療サービスを受けられます。
自由診療とは
公的な医療保険が適用されない医療技術や薬剤による治療のこと。治療にかかる費用は全て患者負担となります。
混合診療が認められている場合も
前述したように、一部では混合診療が認められているものもあります。
評価療養…保険導入のための評価を行うもの
例)先進医療、治験に係る診療 etc…選定療養…保険導入を前提としないもの
例)大病院の初診、特別の療養環境(差額ベッド)etc…
上記のように、混合診療が認められている場合、保険診療部分の1~3割負担に加えて、自由診療部分は100%自己負担といった組み合わせが可能となります。
混合診療が制限されている理由
混合診療が認められていない理由は、以下の2つです。
患者さんの負担増加の可能性…本来であれば保険診療より一定の範囲内で必要な医療が提供されるにもかかわらず、患者に対して保険外の負担を求めることが一般化する可能性
科学的根拠のない特殊な医療の実施を助長するおそれ
そのようななか、2024年5月には厚生労働大臣が「保険診療と自由診療の組み合わせ制度の対象拡大を検討する」と発言するなど、現在でも様々な議論が生まれています。
そこで、今回は医師専用コミュニティサイト「MedPeer」の医師会員に調査を行いました。
参照:厚生労働省「保険診療の理解のために」
日本医師会
保険診療と保険外診療の併用について
調査結果|混合診療に賛成派は6割越え
賛成(24.2%)、どちらかというと賛成(39.5%)と合わせて63.7%の医師が混合診療の解禁に賛成という結果となりました。
それぞれの意見をご紹介します。
「賛成」
60代 男性 勤務医 呼吸器内科 一般内科
混合診療解禁に賛成です。今は、保険診療と自由診療の併用ができなくて経済的に全て自由診療として扱うことになるので、患者さんには大変な思いをさせてしまっています。併用が可能になれば保険診療として少しは経済的に負担が減るし医師側としてもカルテを別々に記載するという手間もなくなり双方にとって良いことのように思います。
50代 男性 開業医 産婦人科
今後の医療費削減に寄与するかもしれない。治療の自由度が上がり、本来保険診療でカバーできる診療内容が自費診療があるためにすべて自費診療になるのは患者サイドの経済的負担が多くなりすぎる。カルテの記載方法に懸念があるが、厚労省がしっかりとルールを決めればよいし、厚生官僚の療担規則に則った診療という文言も煩わしい。
30代 男性 勤務医 小児科
今までの経験上、混合診療だったらよかったのに、と思うことはあったが混合診療でなくてよかった、と思うことはなかった。いざ混合診療ができるようになったら問題もあるのかもしれないが、経験の浅さゆえ具体的に困ることが想像できない。
70代以上 男性 勤務医 消化器外科 人工臓器・移植外科
持たざる者への差別医療となる欠点はあるが、持たざる者も基本的医療を受けられる皆保険制度維持を可能とし、保険料支払者が医療保険対象外の最新医療を容易に受けられることを可能とする。また同時に日本の医療の進歩にも有益となる。
50代 女性 開業医 皮膚科
以前バイトに行っていたクリニックは一般皮膚科も美容皮膚科も標榜しており、混合診療をしていました。患者さんにとっては、レーザーを受けた日に保湿剤などを同時に処方してもらうことができ、便利だったと思います。
50代 男性 勤務医 泌尿器科 腎臓内科・透析
将来の日本の医療費を考えれば混合診療に方向転換しないと破綻すると予想しています。ただ、どの治療を自由診療か保険診療かに振り分けることが難しいので全面的というより一部を試行するか形が良いと考えます。
「どちらかというと賛成」
60代 男性 勤務医 一般外科
世界的に薬剤、医療器具・材料、一般介護用品など価格が上昇する中、現行の下がる一方の診療報酬額では、世界標準の治療は行えないのが現実!本来は世界標準の医療が行えるべく、診療報酬が確保されるべきだが、公的に確保しないのであれば混合診療にやむを得ず踏み切らざるを得ないと考える。医療への経費は日本国内だけで処理しきれるものではない。これ以上現場負担だけで現状を乗り切ろうとするのは、医療が世界的にビジネス化して営利業種化された中では困難な状況だ!よって、消極的立場で混合診療もやむなしと考える。
60代 男性 勤務医 小児科
生活保護の様に保険料を支払っていない人が窓口での支払いもなく高額医療を受けらるのは異常です。
保険料を支払っている人が良い医療受けらる様に改善する必要があります。
そうでなければ英国の様に税金で医療費を賄い、窓口での支払いをなくすのが妥当です。
現状のままでしたら、保険診療を範囲を限定して、混合診療を認めるのが正しい方向性です。
50代 女性 開業医 皮膚科
保険診療の上限を設けることで、したい人がする私費医療があってもいいと思う。民間で怪しい医療まがいをするよりはいいかも(医者が責任を持つという意味で)
ただ、しっかり保険診療で賄う疾患を見直し、不要なものは保険から外していいと思う。小中学生の体育祭後の筋肉痛にシップを出すなどありえない処方が多すぎる。
70代以上 男性 勤務医 一般内科
保険診療と保険外診療の併用をする「混合診療」は、一部を除いて原則禁止されており、全体を自由診療として整理されます※。
混合診療を解禁すれば、患者さんが自由診療を受けやすくなり、施設の経営状態や医師の給与の好転にも寄与する可能性があると思いますが、患者さんの負担が増え、患者数は減る可能性があります。
60代 男性 勤務医 一般外科 消化器外科 乳腺・内分泌外科 呼吸器外科
様々な患者のニーズにこたえるためには必要な場面もあると思われる。特に形成や皮膚科領域の美容医療や、脂肪吸引などは相応の医療設備と他科の協力が必要なこともある。また本邦で認可されていない治療薬や治療法の海外輸入も入手しやすくなると思います。
40代 女性 勤務医 泌尿器科
ロボット手術や高額な抗がん剤などは混合診療でもいいとは思う。
ロボット手術を生活保護の方が無料で受けられるのが、なんとも。
今後認知症の数百万する治療も保険適応となるのかと思うと、他に税金の使い方があるように思う。
「どちらかというと反対」
70代以上 男性 開業医 一般内科 泌尿器科
基本診療は保健、有効性が臨床試験で明らかな保険未承認の抗がん剤のような有効性が立証されてる例や、歯科で根管治療は保健、かぶせるモノは自費というような例はOKですが、 保険で外来検査やって、わけのわからない、独自の免疫療法は駄目ですよ。
60代 男性 勤務医 眼科
混合診療を解禁すると、保険診療が縮小し、お金のない患者さんと自由診療分にお金を払える患者さんとの間に差が出て、お金のある患者さんは良い医療を受けれて、お金のない患者さんは不十分な医療しか受けれなくなる可能性があると思います。
50代 男性 勤務医 放射線科 一般内科 緩和医療 その他
そのまま進むと、特に小児に関し収入による不平等化が更に進む気がします。子供の教育についてかなりの不平等があるように思いますが、同様に子供たちの医療にも不平等化が進むことを心配します。
20代以下 男性 勤務医 その他
保険診療でカバーできない範囲の医療で転帰が改善する例はそこまで多くないのではないか。それよりは薬の承認にかかる時間の問題などにフォーカスを当てた方がいいのではと感じている。
50代 男性 勤務医 病理
中には有用なものもあるのでしょうが、通常の保険診療がないがしろにされかねず、金持ち優位の医療になりかねません。なかなか、賛成はしかねます。
30代 女性 勤務医 麻酔科
基本的には保険診療が標準治療であることが多いです。保険外診療もできるとなれば、利益目的に勧めてしまう医師が増える気がします。
「反対」
40代 男性 勤務医 放射線腫瘍科
現在の自由診療の状況を見ると、いわゆる「トンデモ医療」が横行していますので、混合診療を解禁すると、お金儲けのためにやりたい放題の状況になってしまうと思います。お金儲けのためにやりたい放題の医療をされて、そういったクリニックは荒稼ぎし、それによるひどい有害事象が起きたら保険診療をしている病院に丸投げて苦労する地獄絵図が目に浮かびます。
60代 男性 勤務医 腎臓内科・透析 泌尿器科
歯科医療は早くから混合診療にしたため、現在では世界的に常識な治療を受けるには保険診療枠の治療では不十分で自費が格段にかかる。本来、国民皆保険制度は我が国の医療の安全保障(日本国民のための)の根幹であり、進化する医療を可及的速やかに保険診療枠に入れる努力を継続することが必要である。
30代 男性 勤務医 美容・アンチエイジング
運営において利益優先、医療の質の低下が心配されるから。自由診療をしたいのであれば、自由診療に特化して専念すべき。都合の良いようにいいとこ取りされても困る。
40代 女性 勤務医 一般内科
今の自由診療の状況がひどい現状を見るに(美容に限らず)、混合診療解禁した場合、今以上にエビデンスに乏しい医療が公然と行われるようになると思うため反対です。
70代以上 男性 勤務医 一般内科
医療は国が国民の健康と生活を保障するためのものなので、元来、公費負担すべきもの。現在の国の方向が社会保障費を削減し、自助努力を促すことは許せない。
60代 男性 勤務医 放射線科
医療費の増加につながり、結局は保険診療の点数が抑えられるのではないでしょうか。ガイドラインを逸脱した医療の横行しそうです。
「どちらでもない」
40代 男性 勤務医 整形外科・スポーツ医学
医者のモラルによると思います。高いお金をかけるだけの価値がある医療を提供できる自信があればいいと思いますが、改善率などのデータを示して患者さんを口先で騙すように治療を受けさせるのどがないようにしてほしい。あと、アフターフォローをしっかりしてほしいと思います。
60代 男性 勤務医 一般内科 健診・予防医学
この国の過去30年の常としてなし崩しに規制が緩み、必要な警戒監視が等閑にされ、そして最終的に一部の人が一部の人のために回復不能な不利益を被る、ということになるでしょうな。他の事案同様、貧すれば鈍すで、後退国日本にはこの流れは止められないでしょう。
60代 女性 勤務医 産業医
実際の運用の仕方で混合診療の方が患者に有利に働く場合が多いとは思いますが、それを悪用する患者や医療機関が出てくる可能性が大だと思います。現状のままの保険診療のやり方だと難しいと今のところは思っていますがどうすれば良いのか思いつきません。
60代 男性 勤務医 小児科
自由診療は保険診療だけでは賄えない治療が行えて、患者さんへのメリットはあるものの、より高額な医療費負担にもなりかねない。治療受けられる患者さんと受けられない患者さんが出る。保険診療だけでは助からない事もあるので、ある程度線引きは必要。
60代 男性 開業医 循環器内科 呼吸器内科 消化器内科 一般内科 総合診療
すでに部分的な混合診療はおこなれわれており、解禁もありうる。患者の選択肢は増えるが、必ずしも患者のためになるとは限らす医療の質をどう担保するかが課題。
40代 男性 開業医 産婦人科 漢方医学
産婦人科開業医です。普段から混合診療なので他の科で混合診療を解禁した時にどうなるかが全く分からないため、「どちらでもない」を選択しました。
混合診療の導入には慎重な検討が必要であり、医療の質や公平性をどのように確保するかが重要な課題となりそうです。実際の運用において、医療制度がどのように進化し、それが患者や医療現場にどのような影響を及ぼすのかが注目されます。
混合診療が医療の未来をどう形作るのか、そして医師たちがどのように対応していくのでしょうか。
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