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【初期研修医向け】輸液の仕組みやオーダーの秘訣を詳しく解説

研修医のみなさんに知っていただきたい輸液のしくみやオーダーなど「輸液」の基本について、元聖路加国際チーフレジデントの孫先生が解説します。
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講師プロフィール

孫 楽さん

2013年京都大学卒業後、聖路加国際病院入職。同院内科チーフレジデント、腎臓内科シニアレジデント・フェローを経て、2020年より京都大学医学研究科大学病院入学、横浜理化学研究所出向。研究分野は「バイオインフォマティックス」の解析。


輸液の基本をおさらい

輸液には、「維持輸液」と「補充輸液」という2つのカテゴリーが存在します。
これらを合わせて処方する際は、かなり複雑になることがあります。

まず、「維持輸液」と「補充輸液」をオーダーする時のポイントをご紹介しましょう。

輸液オーダー時のポイント
・「維持輸液」
キーワードは「30-2-1-100」で計算する
・「補充輸液」
「Volume depletion」「Dehydration」に分けて考える

特に1年目は、毎日のように輸液のオーダーをしなければならないほど、頻繁に輸液を取り扱います。新しく医療の現場での仕事をスタートする医師にとって、輸液は、大きなハードルのうちの一つです。

「維持輸液」と「補充輸液」の役割

「維持輸液」とは、人がただ生きているだけで体から失われる成分を補うための輸液です。健康であっても、日常生活を送る中で必要とされる栄養や水分を保つために必要です。
例えば、風邪やコロナのような疾患で体調を崩し、食事や飲水が困難になった際でも、最低限の生命維持のための成分がこの維持輸液には含まれています。入院中の患者さんが普段通りの食事や水分を取るのが難しい場合、維持輸液が薬として処方されるケースが多いです。

「補充輸液」は、体内の特定の成分が不足している、または過剰である場合に、そのバランスを取るための輸液です。体内の成分が不足している、または過多である場合に、その差異を埋めるために使用されます。
補充輸液の主な目的は、体内の成分バランスを正常に保つことです。
例えば、激しい下痢をしている場合など、通常の量の水分を摂取しても体内で保持されずに速やかに失われてしまいます。そのため、さらに追加で輸液を行う必要があります。

また、「補充輸液」と似ているものとして「初期輸液」があります。
状態が非常に悪く病院に到着した瞬間から直ちに開始しなければならない、例えばICUなどで治療を行う場合は、初期輸液を行います。

ただし、特定の状態の患者さんにどのような治療をすべきか、という明確なエビデンスはありません。例えば、敗血症(セプシス)の患者さんにどのような治療が最適かについての大規模な臨床研究の結果が、『The New England Journal of Medicine』や『JAMA』のような著名な医学誌に掲載されることもあり、まだ明確なエビデンスが確立されていないのが現状です。

そのため、私たちには、既存の原則を理解し、明確なガイドラインが存在する分野ではそのガイドラインに従って治療を行う、という対応が求められます。

次に、それぞれの輸液について、事例をあげながら解説していきましょう。


「維持輸液」とは

維持輸液の法則
水分量 30-40ml/kg
Na 2mEq/kg
K 1mEq/kg
糖 100g

例)50kgの人の場合、1500mlの水分、ナトリウム100mEq、カリウムが50mEq、糖が100g必要となる


ヒトが飲まず食わずの状態で、体を機能させるために最低限必要なものは、水、塩、カリウム、糖です。その必要な量が上記になります。

この比率で作られた液体が、いわゆる「維持液」(3号液)で、特定の根拠に基づいて決定されています。
水分量に関する基準は、いかなる状況でも1日に尿として排泄される量がおおよそ500ml、さらに便や汗などを考慮に入れると、必要な水分量は体重あたり30〜40mlとされています。

電解質については、例えばNaCl(塩化ナトリウム)の場合、高血圧の患者では1日に6g未満の摂取が推奨されています。これは、体重あたりおおよそ2mEqに相当します。また、カリウムについては、この量の半分程度が必要です。
点滴だけで過ごす場合には、リンやマグネシウムなどの電解質を補給する必要があることもあります。

糖に関しては、ケトーシスや蛋白異化を予防するため、1日約100gの摂取が推奨されています。特にICUなどで治療を行う場合は、1mg/kg/minとなります。
最低限の維持に必要な量なので、長期的な点滴治療の際には、ビタミンB1の欠乏が起こりやすかったり、アミノ酸や脂質の補給が必要になることも考慮する必要があります。


「補充輸液」とは

「補充輸液」を理解するためには、体内のどの部位に水がどれだけ存在するかを知る必要があります。
※下記図参照

体液の組成

体の構成はおおよそ、固形物が40%、体液が60%です。
この体液を細胞の内部と外部に分けると、2対1の比率で、細胞内液が40%、細胞外液が20%となります。さらに、細胞外液を組織間の液体血と管内の液体に分けると3対1の比率となるため、組織間液15%、血漿5%となります。

これらの間には細胞膜や血管壁が存在しているため、それを通過する物質によって、どのような輸液をするかが変わってきます。
例えば、よく使われる「生理食塩水」は主にナトリウムを含む成分です。体内のナトリウムは、細胞外液に多く分布しています。そのため、生理食塩水を投与すると、細胞外液の部分に分布します。私たちが「血圧」として測定できる数値は、血管内の液体量を反映したものです。投与した生理食塩水の約4分の1が血管内に分布するので、低血圧の患者さんの場合、これによって血圧が回復すると考えられます。

補充輸液の中に「5%ブドウ糖液」があります。
体内に入るとブドウ糖はすぐに代謝されるため、ほぼ純水を投与しているようなイメージですが、純水は直接投与すると危険なため、5%のブドウ糖が加えられています。
この液体はナトリウムなどの浸透圧を形成する物質をほとんど含まないため、体内で均等に分布します。具体的には、体液の60%中、わずか5%しか血管内に分布しないので、500mlを急速投与しても、血管内に残るのは12分の1程度となります。これを踏まえると、低血圧で困っている患者さんに5%のブドウ糖を投与しても、即座に血管内に大量の水分を供給するわけではないため、十分な効果を期待するのは難しいといえます。
補充輸液を行う際には、どの部位にどれだけの液体を届けるかという考慮が必要です。

補充輸液を決めるための指標「体液評価」

補充輸液を投与する前に、そもそも補充が必要かどうかの判断が求められます。
「体液評価」や「ボリューム評価」などを行いますが、多くの医者がこの評価を難しく感じています。

体液の評価

患者さんが食事や水分を取れているか、入院中の栄養の変化、体調の変化(下痢、嘔吐、発熱など)や薬の服用、心不全や腎不全の有無など、さまざまな要因を総合的に判断する必要があります。特に入院経験のある患者さんの場合、前回の体重との比較は大変参考になります。体重が大幅に減少している場合は、補充輸液が必要である可能性が高いと判断できます。

これらの問診に加えて診察では、血圧や脈拍だけでなく、腋窩の乾燥など見落としやすい点も注意が必要です。
検査としては「IN/OUTバランス」や体重の変動も大切な指標です。超音波での下大静脈の変動や、X線での心胸郭比も参考にしましょう。

これらの検査結果を総合して、患者さんが本当に脱水状態にあるのか、そして輸液が必要かどうかを判断します。

過去の文献を参考にすると、1999年の論文(※)では、体液の欠乏をどう評価すればよいのかについて研究されています。この研究では、腋窩の乾燥やCRPなど、身体所見が重要であることが示されています。
(※)S McGee et al. JAMA. 1999;281:1022-9

脱水の種類としては、「ボリュームディプレッション」と「デハイドレーション」の2種類があります。
「ボリュームディプレッション」は細胞外液が減少している状態で、血圧の低下が特徴です。この場合、生理食塩水での補充が効果的です。
「ディハイドレーション」は全体的な水分不足で、口渇やナトリウム値の上昇が特徴となります。この場合、5%ブドウ糖液の投与が適しています。

しかし、これらの脱水の状態が混在している場合もあり、その場合はボリュームディプレッションの補正を優先しましょう。血圧の低下は生命の危険を伴うため、バイタルサインの維持を最優先し、適切な輸液を選択してください。

「等張液」とは?

ほとんどの輸液は生理食塩水と5%ブドウ糖に大別できます。アメリカの病院では、既製の輸液としてこれら2つしかなく、混合比を医師が指定した上で使用されます。
重要なのは、選択する輸液の中のナトリウムやカリウムの含有量、そして糖の有無です。これらを考慮し、必要な輸液を選び、適切な混合比で使用することが求められます。

患者さんが下痢をしている場合や消化器外科の手術後、絶食状態でNG tube挿入や胆道ドレナージを行っている場合、そこからの排液も考慮して補充する必要があります。
この排液は、主にナトリウムが高めで生理食塩水に近い組成を持っています。そのため、単純に同じ組成の輸液を補充するのが望ましいとされ、この生理食塩水に近い組成の細胞外液を「等張液」とも呼びます。

「等張液」の名前の由来を知っておきましょう。

等張液の由来

体内の中は、浸透圧によってバランスが保たれています。
この中の「BUN」という要素は、細胞膜を自由に通過できるため、水分の出入りには大きな影響を及ぼしません。そのため、BUNを無視するという考えから「張度」という概念が導き出されました。張度は、細胞膜の通過が制限されるナトリウムとグルコースだけで計算されます。
この「張度」の考え方に基づくと、ナトリウムとグルコースの濃度が細胞外液と同じ数値を示します。生理食塩水は、細胞外液と基本的に同じナトリウム濃度を持つので、細胞外液と同じ張度となり、「等張液」と呼ばれています。

輸液使用時の適正速度

どの輸液をどのくらい使用するかに加え、どれくらいの速度で患者さんに投与するかをオーダーすることも医師の役割になります。

特に腎機能が低い患者さんや、肝硬変で腹水が溜まりやすい患者さん、高齢で心臓の拡張障害がある患者さんなどは、一度に多量の輸液を行うと、浮腫や体の血行動態の異常を引き起こすリスクが高まるため、時間あたり20mlから40ml程度にとどめるのが一般的です。
このような知識を持つことが、適切な輸液治療を行うためには不可欠です。

最後に、初期輸液=ショック状態の患者さんを安定させるための輸液も、補充輸液の一部として理解することが重要です。
輸液を選択する際に重視する点として、ボリュームディプリーション、すなわち細胞外液の欠乏を補正する必要があります。たとえ高ナトリウム血症を併発していたとしても、ナトリウム濃度の高い生理食塩水を選び、その輸液の4分の1が血管内に行き渡るようにする選択が求められます。

また、輸液にカリウムが含まれているかどうかも選択する際の一つの基準となります。腎不全や透析を受けている患者さんのように、余分なカリウムを摂取したくない場合は、この点を特に考慮する必要があります。

また、そのほかの輸液として、「クリスタロイド」とは異なる「コロイド」というグループの輸液も存在します。例えば、アルブミン製剤5%と25%の2種類があります。
コロイド輸液は、投与した量の大部分が血管内に滞留するため、蘇生が必要な重度のショック状態などの時に役立ちます。

まとめ|輸液オーダーに正解はありません!

医師としての経験を積むと、輸液のオーダーのような日常的な治療指示がルーチンとして行われがちです。しかし、入院初日やその続く数日間のように、患者さんの病態が日々変化する場面では、毎日治療方針を見直す必要があります。
特にICUに入院している患者さんのように、病態が数時間単位で変わることもあるため、輸液も処方する薬のうちのひとつだという意識を持ち続け、治療方針の見直しを常に考える習慣を持つことが大切です。

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