2026年出産費用を「保険適用」医師の約半数が賛成
正常分娩にかかる出産費用は公的医療保険の対象外
現状の医療保険の制度では、妊娠は”病気ではない”とされているため、医療保険の対象外となっています。
そのため、妊婦検診・正常分娩の場合の出産費用・出産にかかる入院費用はすべて自己負担となっています。
しかしながら、妊婦検診の費用の一部を助成したり、健康保険や国民健康保険の被保険者等が出産したときは、出産育児一時金が支給されるといったサポート制度があります。
さらに、女性の妊娠・出産について少子化対策の一環として、2023年4月に出産一時金が増額されました。
政府が出産(正常分娩)の保険適用を検討開始
しかし、出産費用は地域差が大きく、都市部では物価高騰などの影響で出産費用が上昇するなど一時金だけでは賄い切れないケースも出ています。
そこで、出産費用を全国一律の価格とするため、政府は2026年度をめどに出産費用の保険適用を含む支援の強化を検討しています。
さらに、厚生労働省とこども家庭庁は、専門家や当事者を交えた検討会を設置し、出産費用の保険適用に伴う影響や課題について具体的な議論を始めました。
この政策が現在の医療にどのような影響を与えるかは、多くの関係者にとって注目のポイントです。
そこで、"出産関連費用の保険適用について”医師たちはどのような見解を持っているのか、医師専用コミュニティサイト「MedPeer」の会員医師に意見を聞いてみました。
約半数の医師が「出産関連全てに保険適用すべき」
調査では、多くの医師が出産費用の保険適用に賛成という結果になりました。
母子の健康管理の重要性や、保険適用の実現で、出産に関わる費用の負担軽減がされ、もっと多くの家庭が子どもを持つことができるようになると期待しているようです。
一方で、保険適用により産婦人科医の領域への影響についての懸念に対してコメントが寄せられていました。
「出産関連全てに保険適用すべき」
70代以上 男性 勤務医 膠原病科 リウマチ科 アレルギー科
出産は正常分娩と異常分娩と分類されるが、分娩直前・直後になって異常/正常の判断となるものであり、妊娠時からの医学的管理が必須であることから、公的医療保険で扱うことが合理的である。後期高齢者が様々な加齢に伴う疾患が発症するが、老化現象であり、むしろ老化は生理的現象であるにもかかわらず、疾患の定義で異常として扱うことと同様に、妊娠・分娩も生理現象であるが医療の遡上にあるとの認識して公的医療保険の対象とすべきである。
60代 男性 勤務医 一般外科 消化器外科
医療側の経済事情は別に解決しましょう。少子化対策として上記を行うことで女性が出産することを社会が歓迎しているというメッセージになります。少なくとも今は医師が自己の利益のために(自己の利益を主張することは必要不可欠です)反対しているような印象になってしまっています。社会の大半の人は(本当は重要である)医療側の経済事情には興味はありません。そのことを強く意識すべきです。
70代以上 男性 勤務医 一般内科 その他
一部の出産関係(帝王切開など)は保険適用であり、当事者には不公平感があるかもしれない。
我が国は少子高齢化が危機的であるが、経済的理由で子供を産みたくてもできない若年世代が多数存在する。
出産へのハードルを下げられるところは下げるのが良いのではないかと思う。
60代 男性 開業医 総合診療 代謝・内分泌科 一般内科 製薬医学
少子化対策はもとより、妊娠出産にはリスクが伴う事、母子の健康管理を保険適応とすることは、産褥期も含めてとても重要な医療行為ですので、国の責任下に保険適応すべき。昨年初孫が生まれたこともあり、切実に医療の必要性を痛感しましたので、なおさらです。
60代 女性 開業医 眼科
誰でもが普通になる状態ではなくなっている。正常分娩は産科にかからずに行うのは相当難しいし体に対する負担は、コモンディジーズ(※)以上でしょう。正常分娩に保険適応できないなら、風邪とか軽症の腰痛など先に保険から外したらいいんじゃないかと思う。
※日常的に高頻度で遭遇する疾患、有病率の高い疾患のこと
40代 男性 勤務医 一般内科 神経内科
出産費用が自由診療のままであれば、出産育児一時金がいくら増額になってもすべて医療機関に召し上げになってしまうから。保険診療になるのであれば、出産育児一時金は不要。お金がかかる場合は高額医療費の対応でよいと思います。
50代 男性 開業医 一般内科
少子化対策のため、出産における家計への負荷は最小限にすべき。ただしそれで産科医の報酬が減少して産科領域のマンパワーが縮小すれば本末転倒の結果になるので保険点数は高めにして全国民で負担を分かち合う必要がある。
20代以下 男性 勤務医 その他
少子化が進み、社会保障制度の維持が困難になりつつある現在の状況を鑑みると、出産・育児に要する自己負担を減らしていくことで長期的には社会保障制度の維持ができると考える。
30代 女性 勤務医 耳鼻咽喉科
少子化問題が日本の課題なので、社会全体で責任を負うべき。また、自費診療だとクリニックは公的資金からの助成金額分を結局さらに上乗せしていく気がするので意味がないように思う。
40代 男性 開業医 感染症科
帝王切開であれば保険適用、正常分娩であれば自費というのは不適切かと思います。
いずれも保険適応外として一時金でも構いませんが、どちらにせよ出産に大金がかかるようでは少子化対策など何も進まないのではないでしょうか。
40代 男性 勤務医 緩和医療 麻酔科
どこまでが正常分娩で、どこからが異常分娩(保険適応)かどうかが、ちょっとしたところで異なってきており、一律にしたほうがわかりやすいのではないか?
30代 男性 勤務医 腎臓内科・透析
出産は病気ではないが、医療が進歩している状況でも命懸け。何が起こるかわからないためそれ相当の保証してもいいと思う
「出産関連の一部に保険適用すべき」
60代 男性 勤務医 一般内科 一般外科
保険診療を必要とするというか、それでいいとする方々も少なくないと思います。
もし保険適応の流れになったら、最適な医療と待遇を売りとする自由診療の施設が出てくると思います。
当家は残念ながら不妊治療行うも、恵まれませんでしたが、そうなったら100万以上出しても自由診療を選ぶと思います。
30代 女性 勤務医 消化器内科
現在でもかなり助成はあると思います。健診はほぼ助成で賄え費用負担はありません。でも、やはり出産の時に50-70万円程度かかり、無痛を選択するとさらに高い。一時金をもらっても足が出る。あんなにしんどい思いをして産んだのだから、褒美をくれてもいいくらいだろとは正直思いました。
60代 男性 勤務医 放射線科
公定価格ではなく、妊婦が産院を自由に選べるほうがよいと思う。お金を出してでも、サービスを買いたい人はそうすればよい。その方が、自由競争を促してよいと思う。但し、出産補助金は手厚く支給したい。人工授精でやっと妊娠した人には、一定の条件下で公費負担で。
60代 男性 勤務医 放射線科
保険適応することで少しでも出産に対する躊躇が減れば良い。ただ、現状で出産施設も色々で、保険にそぐわないリゾートホテルのような施設があり、自費でもいいからそこでの出産を希望する人もいると思う。保険と自費を選択できるとか、少し緩い方がいいように思う。
30代 男性 勤務医 小児科
現在の自由診療方式では、分娩に関わるホスピタリティ(食事や父親立ち会いなど)は各病院で工夫しており、全て保険診療の対象とすると差別化が難しくなります。分娩自体は保険として、その他のホスピタリティは自由診療とするのが良いと思います。
50代 女性 勤務医 心療内科 総合診療 一般内科 精神科 その他
今の日本において、出産・育児(将来の労働力を出力すること)は、国益です。
保険というか、とにかく国が出すべき費用だと思う。1人の日本人を「労働性のある個体」まで育てあげるには、昔よりもかなりの費用がかかる時代ですから。
30代 女性 勤務医 放射線腫瘍科 放射線科 腫瘍内科 緩和医療 在宅医療
自身も出産を経験しました。帝王切開でしたので保険適応になり、費用面で助かったところもありますが、出産関連の全てに保険適用とするのは抵抗があります。社会的に問題となるような出産、育児放棄などが増える要因となる気がします。
50代 男性 勤務医 産婦人科
出産においては医療面とサービス面・ホスピタリーティーの面があります。医療面においては保険適応はありと思いますが、サービス面・ホスピタリーティーの面はここの病院やクリニックでさがあっても良いと思います。
50代 男性 勤務医 一般内科 呼吸器内科
全部を保険適応してしまうと自由度がなくなってしまい、医療側も妊婦側も困ると思う。ただ、全額負担は妊婦にとっては大変。会社によっては出産手当が出てくるので、贅沢しなければそれほどの負担ではないと思う。
「保険適用すべきではない」
40代 女性 勤務医 産婦人科
保険適応にすると、一部の産院のような豪華な部屋、豪華な食事で差別化を図るというのは難しくなるのではないかと思います。
出産においては、そういったホスピタリティに重きを置く人たちもいるので、そういった人たちのニーズはどうなるのかなあと思います。
そして、もし保険適応にするなら、出産一時金はこんなにいらないのでは?と思います。
50代 男性 勤務医 感染症科 消化器外科 一般外科
全国一律の公定価格である保険適用よりも、都会は高額にするなどの自治体などの支援による出産育児一時金の方が、産科医療に対する支援としては適切だと考えます。
もっと言えば、保険点数も地域によって読み替える(1点10円の固定制度ではなく、東京は15円とか)制度を早急に実施すべきだと思います。
60代 男性 勤務医 産婦人科
保険適応するということは、いかなる分娩も病気と定義することになる。また結果的に正常分娩であっても、そこに至るまでにたくさんの医療介入が行われた結果であることが多く、保険適応にはなじまない。クリニックを潰そうとしているとしか思えず、何ら少子化対策にもなっていない。
30代 男性 勤務医 消化器内科
保険適用は疾病(病気)というくくりで、出産は病気ではないという認識だから保険適用ではなく一時金なのではないかと認識しています。その一貫性を考えても保険適用ではなく、一時金を増額する等の形で対応して、保険適用にするべきではないと思います。
50代 男性 勤務医 産婦人科
保険診療報酬点数が決められると、将来現状維持かそれ以下になる可能性があり、今後のインフレに対応しにくくなります。その結果、都市部から産科診療施設の倒産数が増加することが予測できます。妊婦難民が増えても、政府は責任をとらないでしょう。
60代 女性 勤務医 産婦人科
無痛分娩のような本人希望のものも保険で賄うのか、混合診療とするのか、サービス的なものも保険診療とするのか。また地方と都会では必要経費も違ってくるのに、全国一律で賄えるのか。賄えなければ産科施設が減るだけになる。
50代 男性 勤務医 一般外科 消化器内科 在宅医療 緩和医療 漢方医学
日本の出生率低下は育児するのにお金がかかりすぎるためなので、出産ばかり援助しても効果はない。どうしても保険適応するなら、整骨院や湿布・うがい薬処方などを保険外診療にして原資を確保するのが先でしょう。
コメントで共通していたのは妊娠・出産時の負担は極力減らす必要があるということでした。
保険適用にすることで、出産への費用負担軽減に対してポジティブな意見はありつつも、都市部での医療機関の負担増や、クリニックの差別化が生まれにくくホスピタリティが低下してしまうのでは?という懸念もあるようです。
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